4日目

野鳥のさえずりとともに起床した。
 
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早朝のライトトラップの様子
レピはまだたくさん白布にくっついていた

起床後一応ライトラの周りを確認したが甲虫はほとんどいなかった。

現地採集人が町で買ってきた朝食を食べてる時に現地採集人の一人に次のようなことを聞かれた。

(現地採集人)「昨晩なぜライトラを点灯させていたのに森の方に行ってたんだ?トイレでもしてたのか?」
(自分)「えっ...虫集まるのに時間かかるからその間森で虫探していました」
(現地採集人)「アホかお前たちは笑 ここは黒豹がたくさんいるんだぞ」


(自分)(先に言えやああ(心の叫び)) 

ジャワ島にはヒョウが生息していることは下調べで把握済みだったがまさかここがまさにその生息地だったとは....
日本とはまた違った緊張感を味わうことができた(以後気をつけて採集しました笑)。

ジャングルなので当然シャワーなどがあるわけないので、水を浴びに近くの沢に向かった。すると、すでに先に沢へ向かった水昆屋のたごめ氏の雄叫びが聞こえた。
なにやらヤバい水生昆虫を見つけたらしく、急いでたごめ氏の元へ向かった。

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発狂するたごめ氏と現地採集人

たごめ氏が発狂していた場所は沢の淀みだった。恐る恐るたごめ氏の指差す方向を見てみるとなんとミズカマキリがいたのである!!!
ご存知の方も多いと思うが、本来ミズカマキリは休耕田やため池といった止水域を好む。しかしこのミズカマキリは流水域にいたのである!!さらにすごいことにこの場所で成虫と幼虫が同所的に採集することができたのである!!!つまり、この種はこの沢で繁殖している可能性が極めて高いと言える(そもそもこの沢はジャングルの奥地の谷のようなところにあるので周りにミズカマキリの発生源となりそうな止水域が殆どない)。

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ナガレミズカマキリ(仮称)
𝐶𝑒𝑟𝑐𝑜𝑡𝑚𝑒𝑡𝑢𝑠 sp.
日本に生息するミズカマキリが属する𝑅𝑎𝑛𝑎𝑡𝑟𝑎属と比べて𝐶𝑒𝑟𝑐𝑜𝑡𝑚𝑒𝑡𝑢𝑠属は呼吸管が極端に短く、体の横幅が広いのが特徴的。𝐶𝑒𝑟𝑐𝑜𝑡𝑚𝑒𝑡𝑢𝑠属のグループは日本には生息していないが台湾には𝐶𝑒𝑟𝑐𝑜𝑡𝑚𝑒𝑡𝑢𝑠 𝑏𝑟𝑒𝑣𝑖𝑝𝑒𝑠Montandon, 1909 が生息している。

本種は沢の淀みで見つかったわけだが、沢自体の水量は非常に多く、流れもそれなりに早かった(少なくとも普通のミズカマキリが生息できるような場所ではない)。

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水の透明度が高く、冷たかった

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ナガレミズカマキリを採集した沢の淀み
かなり浅い場所だったが、雨が降れば間違いなく増水するような場所だった。

他に何か変な水生昆虫がいないか沢沿いをガサっていくと休耕田?のような場所に出た。

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オランダガラシ?を栽培している水田?休耕田?

田んぼで採集するいつもの要領で畔沿いをひたすらガサっていくと....

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これは?!?!?!
もしやスジゲンゴロウ?!?!?!?!?!
国内絶滅種のスジゲンゴロウが採れてここでまた一同大興奮!!!!!
しかし、後日調べてみるとスジゲンゴロウではなくオキナワスジゲンゴロウの近縁種の可能性が高いことがわかった。何れにせよ採集できて嬉しい種だった。

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オキナワスジゲンゴロウの仲間
𝐻𝑦𝑑𝑎𝑡𝑖𝑐𝑢𝑠 sp.
側縁部に伸びる二本の黄色いラインの重なる位置がスジゲンゴロウ𝐻𝑦𝑑𝑎𝑡𝑖𝑐𝑢𝑠 𝑠𝑎𝑡𝑜𝑖にしては前寄りなので、スジゲンゴロウというよりオキナワスジゲンゴロウの近縁種ではないかと考えられる。南西諸島に生息するのオキナワスジゲンゴロウも水田や休耕田、浅い湿地などを好む傾向がある。

そんなこんなで早朝からテンション爆上がりのまま午前中は同じ森で𝐷𝑜𝑟𝑐𝑢𝑠狙いで採集することにした。

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ジャングルを突き進む現地採集人

道無き道を藪漕ぎすること約1時間...目の前に巨木が現れた。この巨木、近寄ってみると樹皮に多くのメクレがあった。現地採集人によると titanus trap というものらしく、狭いところが好きなヒラタクワガタ(ここではダイオウヒラタとタウルスヒラタ)の性質を利用した仕組みになっているらしい。仕組みといっても非常に単純なもので、ナタを下から上にむかっていれることで樹皮を残しつつ隙間ができれば完成らしい。また、ナタをいれた時にできる傷から樹液が滲み出るらしく、よりクワガタが集まりやすいのだとか。

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titanus trap が仕掛けられた巨木

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titanus trap

良さげな巨木が出るや否や現地採集人はすぐに木を登り始めた。これまた素足でスイスイと登っていくから驚きである。

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木を登る現地採集人

現地採集人は高所の titanus trap に集まってるクワガタをかき出し棒で取ってくれるらしく、しばらく木を登っているのを見守っていると何か黒い物体が上から落ちてきた。
「まだ現地採集人は登っている途中なのにいったい何が落ちてきたんだ..」
じっくり林床を探していると、落ち葉の上に黒い物体が鎮座していた。なんと黒い物体の正体はリツセマオオクワガタだった!!!!

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リツセマオオクワガタ
𝐷𝑜𝑟𝑐𝑢𝑠 𝑟𝑖𝑡𝑠𝑒𝑚𝑎𝑒 𝑟𝑖𝑡𝑠𝑒𝑚𝑎𝑒 Oberthür et Houlbert, 1914
以前はパリーオオクワガタ𝐷. 𝑝𝑎𝑟𝑟𝑦𝑖と呼称されていたが1998からはリツセマオオクワガタと呼称されるようになった。オオクワガタ亜属に分類され、現在7つの亜種が知られている。ジャワ島には東部に基亜種が、西部にジャワ島西部亜種𝐷. 𝑟. 𝑘𝑎𝑧𝑢ℎ𝑖𝑠𝑎𝑖 Tsukawaki, 1998が生息している。西部亜種は近縁種であるクルビデンスオオクワガタ𝐷. 𝑐𝑢𝑟𝑣𝑖𝑑𝑒𝑛𝑠 (Hope, 1840)に最も類似しており、個体数はとても少ない。

リツセマオオクワガタの登場によりここでまたメンバーのテンションが一気に爆上がりした笑
自分は野外で生きている状態のオオクワガタを今まで見たことがなかったので昨晩のギラファを採集した時と同じ、もしくはそれ以上に感動した。

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かき出し棒でクワガタを探す現地採集人

どうやらこの木は当たりだったらしく、多数のダイオウヒラタクワガタやタウルスヒラタクワガタを捕まえることができた。リツセマオオクワガタも少数ながらもメンバー全員分の個体数を確保することができた。
他の木も同じようなかんじで採集し続けると、今まで見たことないくらい大きなクワガタが目の前を落下した。急いで駆け寄って見てみると、なんとそれはダイオウヒラタクワガタの巨大なオスだった!!

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ダイオウヒラタクワガタ
𝐷𝑜𝑟𝑐𝑢𝑠 𝑏𝑢𝑐𝑒𝑝ℎ𝑎𝑙𝑢𝑠 (Perty, 1831)
82mm。ジャワ島固有種。一般的なヒラタクワガタとは異なり、低地ではなく原生林が残る標高1200m〜2000m付近の高地に生息している。東南アジアにはオオヒラタクワガタ𝐷. 𝑡𝑖𝑡𝑎𝑛𝑠 spp.が生息しているがジャワ島には生息していないため、本種がジャワ島におけるオオヒラタクワガタの代置種となっている。
東部と中部では大顎の形態に差異があるとされており、また、本種と台湾固有のミヤマヒラタクワガタ𝐷. 𝑘𝑦𝑎𝑛𝑟𝑎𝑢𝑒𝑛𝑠𝑖𝑠はスジブトヒラタクワガタ𝐷. 𝑚𝑒𝑡𝑎𝑐𝑜𝑠𝑡𝑎𝑡𝑢𝑠 Kikuta, 1985の近縁種とされている。

大顎の湾曲がオオヒラタクワガタとはまた違った味を出しており、とても良い虫だった。

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この巨木では多くのタウルスヒラタクワガタが採れた

3時間ほど採集し、ベースキャンプに戻る道中で面白いクモがいた。

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トゲグモの仲間
𝐺𝑎𝑠𝑡𝑒𝑟𝑎𝑐𝑎𝑛𝑡ℎ𝑎 sp.
日本にも𝐺𝑎𝑠𝑡𝑒𝑟𝑎𝑐𝑎𝑛𝑡ℎ𝑎属の仲間は生息しているが、全体的に地味な色をしており、角が短い。亜熱帯地域の𝐺𝑎𝑠𝑡𝑒𝑟𝑎𝑐𝑎𝑛𝑡ℎ𝑎属はこの個体のように角が大きく発達するものや派手な色をしているものが多い。長い角を持っている種では角の長さゆえに網が垂れ下がってしまうものもいるらしい。

図鑑でしか見たことがないようなクモがまさか実物で見つけることができるとは......
ジャワ島の“本気”を見た4日目の午前中だった(まだ午前中)。

2019 ジャワ島(4)はこちら
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