5日目(後半)

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ライトトラップの様子
ライト上の傘はスコール対策

待ちに待ったライトトラップが点灯した。今回のライトトラップは崖上の見晴らしの良い場所に設置し、反対側の山に向けて光を照らした。
風もほぼ無く、湿度もそこそこ高い。これは期待できると胸を躍らせていたわけだが、やや星空が見えていたのが少し不安だった(これはこれで絶景)。湿度は高いが、なにぶん標高が1000m以上ととても高いので気温は15℃前後とかなり低かった。しかしガイドによるとジャワの高山種はこれくらいの気温が一番いいらしい。これは少し意外だった。

18時に点灯して30分、、、小さい雑甲はポツポツと集まり始めたが想像していたものとはだいぶ虫の集まりが悪い。。。「これはもしや“好条件なのに虫が全く集まらないパターン”ではないか..」そんな不安が頭の中をよぎっていたが、とある“ムシ”の飛来によって一瞬に払拭された。

18:45
崖側からけたたましい羽音が聞こえてきた。弾丸の如く現れた黒い物体は一直線に白シーツに着地した。
黒い物体の正体は夢にまで見たコーカサスオオカブトだった!!

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コーカサスオオカブト
𝐶ℎ𝑎𝑙𝑐𝑜𝑠𝑜𝑚𝑎 𝑐ℎ𝑖𝑟𝑜𝑛 𝑐ℎ𝑖𝑟𝑜𝑛 Oliver, 1789
ジャワ島からマレーシアなどに分布する広域分布種で、標高800m〜2000mの熱帯高地林や雲霧林に生息する。コーカサスオオカブトは現在4亜種が知られており、ジャワ島の個体群は基亜種である。ジャワコーカサスはコーカサスオオカブトの地域個体群の中でも最も体調が小さくなる個体群である。

それまで意気消沈状態だったメンバーだったが、この個体の登場により一気に採集のボルテージが上がった。
ペットショップなどでよく売られている本種だが、現地で野生の個体を見るのはやはり格別である。

この個体の登場だけでもかなり嬉しかったが、遥々日本からインドネシアまで来たわけなので、是非オスが見たい。メンバー一同躍起になってライトラ周辺の藪を隈無く探した。しかしここで見つかったのはナナフシばかりだった。

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ライトラ周辺で採れたナナフシたち

20m四方を少し探しただけでこんなに多様なナナフシが採れるとは。。。ジャワ島の生物多様性の豊かさにはただただ舌を巻いた。

19:22
二頭目のコーカサスオオカブトが飛来した!!今度はオスだった!!!
見ればわかる小型個体だが、日本の虫では見られない大柄な体格に心底感動した!!

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コーカサスオオカブト
𝐶ℎ𝑎𝑙𝑐𝑜𝑠𝑜𝑚𝑎 𝑐ℎ𝑖𝑟𝑜𝑛 𝑐ℎ𝑖𝑟𝑜𝑛 Oliver, 1789
この個体はライトラ横の木の枝にくっついていた。

この時間帯あたりから一気に多くの虫が飛来し始めた。全てをあげるのはきりがないので以下では主だったものを時系列順に紹介する。

21:02
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コーカサスオオカブト
𝐶ℎ𝑎𝑙𝑐𝑜𝑠𝑜𝑚𝑎 𝑐ℎ𝑖𝑟𝑜𝑛 𝑐ℎ𝑖𝑟𝑜𝑛 Oliver, 1789
三頭目の個体。コーカサスオオカブトは美脚の持ち主である。

21:27
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コーカサスオオカブト
𝐶ℎ𝑎𝑙𝑐𝑜𝑠𝑜𝑚𝑎 𝑐ℎ𝑖𝑟𝑜𝑛 𝑐ℎ𝑖𝑟𝑜𝑛 Oliver, 1789
四頭目の個体。長角個体はなかなか現れなく、このサイズの個体が多かった。この後にはオスは飛来しなかったが、メスは数頭飛来してきた。


22:01
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ハグルマヤママユ
𝐿𝑜𝑒𝑝𝑎 𝑠𝑎𝑘𝑎𝑒
日本でも琉球列島で見かけることができる。鱗翅屋の方によると、ジャワ島の個体群は基亜種の可能性があるとのこと。

22:23
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クロツヤムシの仲間
Passalidae gen. sp.
クロツヤムシの仲間は日本では四国や九州の山地に生息しているツノクロツヤムシ一種のみである。基本的にクロツヤムシは体長が10-20mmで瓢箪型をしているものがほとんどだが、この種はかなり大型になるようで、チビクワガタに似たスマートな体型をしていた。ミトコンドリア16S rRNAの解析によって、クロツヤムシ科 Passalidaeはクワガタムシ科 Lucanidaeと単系統群をなすとされているが(細谷・荒谷, 2006)、幼虫の形態などから本科とその近縁な科の系統関係は今後さらなる精査が必要。


22:28
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ベリコサツヤクワガタ
𝑂𝑑𝑜𝑛𝑡𝑜𝑙𝑎𝑏𝑖𝑠 𝑏𝑒𝑙𝑙𝑖𝑐𝑜𝑠𝑎 (Castelnau, 1840)
人生初のツヤクワガタ属(𝑂𝑑𝑜𝑛𝑡𝑜𝑙𝑎𝑏𝑖𝑠属)はベリコサツヤクワガタだった!!第一印象は
「もうこれマルバネクワガタじゃんっ」
マルバネクワガタ属(𝑁𝑒𝑜𝑙𝑢𝑐𝑎𝑛𝑢𝑠属)とツヤクワガタ属の系統関係は一部の界隈ではかなり昔から議論がある話題である(まあ繭玉をつく流、幼虫の形態、幼虫の食性、メスの体型を比較すれば無理もない)。ジャワ島東部に生息するツヤクワガタ属は本種のみ。オスの飛来も期待していたが結局飛来してくることはなかった。このメス、なんと55mmもある超特大個体だった。

昆虫の個体自体は多くはなかったもののなかなか楽しい夜だった。自分は朝の3時ごろに力尽きて就寝した。

Reference
・細谷忠嗣・荒谷邦雄(2006)DNAから見た日本産クワガタムシ13属の系統関係〜大アゴに見られる性
 的二型進化のパターンを探る. 月刊むし, 426: 41-49

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